はじめに――「保険でお金が増える」は本当?
「将来のために、保険で資産形成を」と言われたこと、ありませんか?
でもちょっと待って!その“おいしい話”、本当にあなたの人生を豊かにするのでしょうか?
保険と投資、役割がまるで違う二つを一緒にすること――それは、酸性洗剤と塩素系洗剤を混ぜるようなもの。有毒ガスは発生しませんが、あなたの資産形成に大ブレーキをかけることになりますよ。
保険と投資、そもそも“目的”が違う
まず、保険と投資の役割を確認しておきましょう。
保険:リスクに備える“守り”の道具
保険は、万が一の事故や病気、災害などによる経済的損失をカバーするための仕組みです。多くの人が保険料を出し合い、リスクを分散します。発生確率は低いが損失が大きい事態に備えるのが本質です。自分や家族の生活を守る「備え」として機能します。
投資:お金を増やす“攻め”の道具
投資は、お金を株式や債券、不動産などに預けることで、将来的な資産の増加や収入獲得を目指す行動です。経済活動を支え、企業や社会の成長にも貢献します。インフレによるお金の価値の目減りを防ぐ「資産防衛」の役割もあります。リスクとリターンが表裏一体で、元本割れの可能性も伴います。
このように、保険と投資はそれぞれ、まったく性質が違うものです。しかし、この2つを組み合わせた商品があります。それが貯蓄型の保険です。
“保険で増やす”のワナ――なぜ混ぜてはいけないのか
貯蓄型保険とは
貯蓄型保険は、死亡や病気などの保障と、将来の貯蓄や資産形成を兼ねた保険商品です。
毎月の保険料の一部が積み立てられ、満期や解約時に返戻金として受け取れます。
代表的なものに終身保険や養老保険、学資保険などがあります。
保険会社が貯蓄型保険を積極的に販売する理由
保険会社が貯蓄型保険を積極的に売るのは、まず収益性が高いからです。保険料の一部が「運用」や「手数料」として会社の利益になる仕組みが組み込まれており、保障だけのシンプルな保険よりも長期間にわたって安定した収入が得られます。
また、顧客の「貯蓄もしたい」「将来が不安」といった心理に訴えかけやすく、営業トークとして使いやすい商品でもあります。さらに、途中解約による返戻金の減額や運用益の一部留保などで、保険会社側がリスクをコントロールしやすい構造です。
一方、顧客が保険に加入し続けることで、解約返戻金の引き当てや、長期間の資金運用が可能となり、資金調達のコストも低く抑えられます。また、保障部分と貯蓄部分が一体化しているため、比較検討が難しく、顧客が本質的なコストやリターンを把握しづらいことも保険会社にとってメリットです。
保険会社が儲かるということは?
このようにして、貯蓄型保険は保険会社にとって非常に「売りやすくて儲かる商品」になっているのです。
保険会社にとって儲かる商品ということは、消費者にとってはあまりうまみのない商品ということです。
保険会社は、貯蓄型保険の販売で集めた資金を株式市場で長期運用することで利益を出しています。短期で運用すると利益が出るか分からないので、貯蓄型保険を短期で解約すると違約金を取ることで、保険会社の損失が出ないようにしています。リスクは保険購入者に、利益は保険会社に。これが貯蓄型保険の正体です。
貯蓄型保険のリターン年利は0~0.3%、一方、インデックス投資で全世界株式の投資信託を購入すると年利5~7%のリターンが得られます。この差は金額にするとどの程度の差になるのでしょうか。
100万円を貯蓄型保険と全世界株式の投資信託で20年運用すると仮定して比較すると次の表のとおりになります。
投資先 | 年率リターン | 20年後の資産 | 増加額 |
---|---|---|---|
貯蓄型保険 | +0.3% | 約106万円 | +6万円 |
全世界株式(7%) | +7.0% | 約387万円 | +287万円 |
なんと、20年で約280万円もの差になります。
不測の事態への備えとして、民間保険だけでなく、公的保険+投資も選択肢に入れてもいいのではないでしょうか。
どうするのが正解?“守る”と“増やす”の鉄則
保障と資産運用は分けて考えよう
貯蓄型保険で資金運用する代わりに、まず「保障」と「資産運用」を分けて考えるのが合理的です。そもそも日本は公的保険(健康保険・遺族年金・労災など)が充実しています。まずは公的保険の内容を理解・把握した上で、必要な保障は、掛け捨て型(定期)のシンプルな保険で確保します。これにより保険料を抑えられ、無駄なコストを削減できます。
お金を“増やす”のは投資で!
貯蓄型保険から掛け捨て型の保険に切り替えて浮いたお金は、自分で運用商品(例:投資信託、株式、債券、iDeCo、NISAなど)に投資します。
こうした金融商品は手数料が低く、運用の透明性や流動性が高いため、資産形成に有利です。
途中でお金が必要になった場合も、解約のペナルティなしで引き出せる場合が多いです。
また、自分のリスク許容度や目標に合わせて運用方法を柔軟に選べます。
運用成果が明確に見えるため、納得感のある資産形成ができます。
「混ぜるな危険!」を合言葉に
保険と投資は本来、目的が異なるため分けて考えることが重要です。
保険は「万が一への備え」、投資は「資産を増やす」ことが役割です。
混同すると、コストが高くなったり、本来の目的が不明確になりやすいです。
それぞれに最適な手段を選ぶことで、無駄なく効率的なお金の使い方ができます。
「混ぜるな危険、保険と投資」このことを覚えておいてください。
おわりに――安心と安全は高くつく
「安全」や「安心」をお金で買うことは、決して悪いことではありません。しかし、そのコストは思った以上に高くつく場合が多いものです。必要以上の保障や、割高な貯蓄型保険に頼りすぎると、将来の資産形成を阻む原因にもなりかねません。本当に必要な保障を見極めて、賢くお金を使いましょう。
「安心」の値段を見誤らないことが、豊かな人生への第一歩です。
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